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べぎらま [イラスト]

夏だった。

部屋の中で万年床のタオルケットの上に座り込んでいい加減な目でTVを見ていた。
カラカラと頼りない音を出しながら扇風機が回っている、夕方の気だるさと暑さでモウロウとしていると、それを切り裂くようにチャイムが鳴った。
「ああ、もう」そう言いながらフラフラと玄関を開けると「やあやあ」と、女友達が立っていた。
小玉のスイカをズイと出して頭を下げ「どうぞ」と、言った。
「近所の人にたくさん貰ったンだ、食いきれないから」
「あ、じゃあ上がって」「お邪魔します」

「あいかわらず賑やかな部屋だね」そう言ってタオルケットの隅にフワリと座る。
冷蔵庫の中からペプシを出してコップに注いで部屋に戻ると彼女はタオルケットの上に置いてあったスケッチブックを見ていた。
「ペプシだけど」「どうも」
フンフンと鼻歌を歌いながらペラペラとページをめくっている。
フイに鼻歌が止まり「あ」と言った。
指を指した先にはドラクエがささっているスーファミが。
「買ったんだ」そう言って「貸して」と両手を合わせた。
「まだ途中だから」
「貸して」
「いや…、だから」
「貸して」
「嫌だよ」
「破くよ?」
手にしたスケッチブックを持って彼女は笑顔でそう言った。
目は笑ってなかった。
もう貸すしか無かった。
彼女が上機嫌で帰ったその後に、机の上に置いてあるスイカをポンと叩いた。
その夜、夜空にうっすらとドラクエの姿が浮かんでいた。
陽炎2.jpg
約2週間後、バツが悪そうに「コレ、悪いんだけど…」そう言って彼女はドラクエを返しに来た。
「悪気はなかったんだよ…」そう切り出して述べられたのは衝撃の言葉だった。
なんと、自分のセーブデーターに彼女が上書きをしてしまったと言うのだ!
「そんな…」急いでスーファミにカセットを入れて確認すると確かにそこに自分のセーブデーターは無かった。
「マジでか…」頭がクラクラした、泣きそうになった。
「や、君がどこまで進んでるのかロードして確かめようとしたら間違ってさ…」
どういう間違いだ。

「そうそう、コレ持ってきたんだ…」そう言って差し出したコンビニの袋にはたくさんのお菓子とジュースが入っていた。
そして彼女はしばらくヨイショ混じりの話をした後「それじゃあ…」と、腰を上げる。
自分が怒っていると思われたくなかったので彼女の帰りを優しく見送った。
小さくなっていく彼女の姿はやがて陽炎に揺れていた、なんだかそれが、よく分からないけど、すごく寂しかった。
陽炎.jpg
そして部屋に戻り、暫く放心した後、これは夢じゃないんだ、そうか、そうなのか。
そう思って、何気に彼女のデーターをロードする。
主人公達の名前が
「サンタ」
「クロース」
「メリー」
「クリス」
「マス」
という自分では考えられないネーミングセンスで衝撃を受けると同時に「見てはいけない秘密を見てしまった」と言う恥ずかしい思いが頭をよぎる。

キキキキキキキ…

ヒグラシが鳴く声を聞きながら、新しい勇者がその世界に降り立つ。

暫くすると信じられない位の激しい夕立と雷がやってきた。
それに負けじと旅を続ける。

バツン!

そんな音と衝撃が来て家が停電した。
先程産声を上げた勇者がもう消えた。
「コレはもうアレだ…、駄目なやつだ…」
そのまま寝っ転がり恨めしげに空を見る。

その雨は明け方まで降った。

その後、自分でも信じられない短い期間でドラクエをクリアしたのだった。



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